ユメノツバサ - The Double Actor - ゆめのつばさ
ねぎ秘密結社で公開されている小説。全体的にシリアス。
西城寺初南賛と榊 ゆたかの出会いから現在に至るまでの物語。
初南賛の意外な過去と、ゆたかが芸能界を引退してしまった理由などが明かされる。
14歳の西城寺初南賛は、父、マイケル・S・山本、母、杜若亜紀という
芸能人を両親に持つこと以外はごくごく普通の中学生。両親は4年前に離婚し、母と共に京都にて暮らしている。
家庭のことなど放ってばかりだった父のことは好きではなかったが、不思議と父のことも気になって仕方がなく、
母に悪いと思いつつも、父に会いにちょくちょく上京していた。
留守中のマイケルのマンション前にて、初南賛を不審者だと思い込んだマイケルのマネージャーに、
マイケルから「ジョナサンは役者の卵で、今日は現場見学に来た」とその場限りの嘘を付かれ、
成り行きでドラマの撮影現場へと連れて行かれてしまう。
そこで駆け出しアイドル役者の榊 ゆたかに出会う。ゆたかは自分の演技力に絶対の自信があるのか、
新人役者であるとされる初南賛に先輩風を吹かし、自分の演技を見て勉強しろと自信満々に言う。
だが、その後の撮影での1シーンで演技に行き詰ってしまう、ゆたか。
自分の演技力がないせいではなく、ストーリーが良くない、と責任転嫁しようとするゆたかに
初南賛は苛つき、思わずゆたかに意見してしまう。激昂したゆたかは、そのシーンを初南賛にやらせてみて、
と監督に頼んでしまう。
経験もない新人の初南賛に恥をかかせてやろう…そう思ったのに、
台本以上の完璧な演技をこなした初南賛に、現場は騒然、ゆたかは愕然とした。
その衝撃は、ゆたかが役者を目指そうと決意させられた「とある映画」に出ていた子役の演技を見て以来だった。
翌日、初南賛の正体を知ろうと、マイケルの元を訪れるゆたか。初めは口を割らなかったマイケルだが、
ゆたかから、その「とある映画」のタイトルを聞かされると、顔色を変えて真相を語りだした。
その映画に出ていた子役は、初南賛であったということ。だが彼は現在は役者を辞め、戻る気もないということ。
そして今は京都に住んでいること。
マイケルは、ゆたかならば初南賛の閉ざされた心を開くことができると信じ、彼と友達になって欲しいと願う。
ゆたかは、撮影の時に酷いことを言ってしまったことを謝りたかったのと、なぜ役者を辞めてしまったのかを
どうしても知りたくなり、学校をサボって京都へと向かう。
初南賛と会い、先日の無礼を詫びるゆたか。初南賛はそれ以上は関わりたくないといった感じで冷たくあしらい、
その場から立ち去ろうとするが、ゆたかから過去の自分の芸名…「山本初太」の名を出され、驚愕する。
慌ててゆたかを自宅へと連れこみ、問い詰める初南賛であったが、
口を滑らせてマイケルが自分の父であることも明かしてしまう。
ゆたかからは、口止め料として「役者を辞めた理由を教えて欲しい」と言われ、初南賛はしぶしぶ過去を語りだす。
6年前、天才子役として一世を風靡した初南賛…山本初太。だが、マイケルの計らいにより、
新作映画の主演を横取りしてしまったことがあり、その事実と、元々の主演だった子役の関係者の暴言を耳にしてしまい、
役者としてのやる気も夢も全て消え失せてしまい、そのまま引退してしまったのだという。
役者に戻る気はない、そう言い切る初南賛だが、ゆたかには、彼にはまだ芝居への情熱があるように見えた。
そんな気持ちを見抜いたゆたかは、初南賛に友達になって欲しいと申し出、舞台に立つ気がなくとも、
芝居が好きなのであれば代わりに現役役者の自分が舞台に立つ、と決意するのであった。
その後、二人は友達になり、一緒に映画を観たり、ゆたかの演技指導を初南賛がしたりと、友好を深めていったが、
何故かゆたかの仕事が急激に減り始め、TVに出ることも少なくなった。
少し前に、ゆたかの姉でアイドルの・榊 みのりが楽屋にて怪しい男に襲われかけていたのをゆたかが救って以来、
ゆたかから徐々に何かが奪われているように見えた。
しばらくして、週刊誌に「人気役者・榊 ゆたかの喫煙現場激写」という見出しの週刊誌が発売される。
画像処理はしてあったが、一緒に写っているのは自分であることに気づく初南賛。
彼が煙草を吸っていないことなど、自分が一番証明できる。これは明らかにでっち上げ記事だ。
だが東京から遠く離れた京都に住んでいるただの学生の自分には何も出来ない。頼りに出来るのは…
何が何でも友達を救いたい。そう思った初南賛は、過去のしがらみやプライドを全て投げ捨て、
今まで一度も掛けることのなかった、父親の携帯を鳴らす。
初南賛の必死の願いは、届くのか――――――